がんになったときに振り返ってほしいこと

がんという病気を、心の面から探って、治療に役立てようとする学問があるのをご存じでしょうか。前にもお話しした、精神腫瘍免疫学(サイコオンコロジー)という学問です。

この精神腫瘍免疫学では、「がんは細胞学的自殺」といわれています。つまり、がんは、「生きているのがつらい。死んでしまいたい。でも、自殺する勇気はない」という気持ちが高じてくると、出てくるというのです

確かに言われてみると、がんをわずらっている患者さんの中には、「死んでしまったら、そのほうが楽だなあ」という気持ちが見え隠れしている人が少なくありません。

仮に、精神腫瘍免疫学の立場から治療を考えるなら、治りたいときには「こんな病気にかかってしまって、周りの人にもたくさん迷惑をかけた。私みたいな人間は生きていても仕方がないんだ」という考え方は、即刻やめましょう。病気の勢力を強くしてしまうことになりかねません。

さらに、自分自身の心の中も振り返ってみましょう。「そうだわ。確かに、死んでしまったほうが楽だ、と思っていたわ」と気がついた人は、今からでも遅くはありません。

なんとかして「死ななくても、楽に過ごせる方法」を考えてみましょう。そうすることで、がんは勢いを失い、おとなしくなってくれます。

厄介なのは、本当は死にたいくらいつらいのに、「私は死にたいなんて思うような弱虫じゃない」と心の奥底にある苦しい気持ちを抑え込んでしまい、自分自身でも気がついていないときです。

こういう場合、本人は自分の本当の気持ちに気づきたくないのかもしれません。

でも周りで見守る方としては、本当の気持ちになんとか気づいて治る方向に考え方を切り換えてもらいたいもの。

しかし、心の中の問題は、周囲の人がどんなに手助けをしても、最終的には、患者さん本人の力で乗り越えなければならない問題です。

よく私たちは、カウンセリングや薬などで、人の心が変えられるような錯覚に陥りますが、本来人の心というものは、他人が変えられるものではありません。周りにいる人の力や薬の力は、病人の心の支えにはなっても、最終的には、本人の「変わりたい」という意志があってこそ、新しく変わっていく力が生まれるものです。

そばにいる方としては、「もっとこんな考え方をすれば、うまくいくのに」と歯がゆいこともあるかもしれませんが、じっと見守ってください。

また、ご家族や医療スタッフが「これがベストだ」と考える道が、本人にとって必ずべストかどうかは、本人以外誰もわかりません。それに誰もその人の人生を一肩代わりして生きることはできません。

もし、患者さん本人が周囲のすすめるような道を選ばなかったとしても、それがその人の生きる道です。つらいけれども、周りの人はそれを見守っていくしかないのでしょう。